KiCadで基板を作る

オープンソースの回路CAD「KiCad」を利用した回路設計や基板製作などを紹介します。


【プロフィール】
iw回路設計
KiCadで回路設計や基板設計をしたりしています。 https://iw-circuitdesign.net

今回は各回路の主要部品を決めていくことにします。

今回の基板では大まかにEthernet通信回路部とPoE電源回路部の2つのブロックに分けられます。
回路構成


Ethernet通信回路

●Ethernetコントローラ
ArduinoのEthernetライブラリでサポートされている「W5500」(メーカー:Wiznet)というEthernet通信ICを使用することにします。
W5500はArduinoのEthernetシールドなどに使用されており、Arduinoでは比較的よく使われている定番ICと言えます。

●EEPROM(MACアドレス取得用)
また、ローカルネットワークだけでなくインターネット上にも接続する可能性を考えて、予めMACアドレスが書き込まれたEEPROM「24AA02E48」(メーカー:microchip)も実装することにします。

PoE電源回路

PoE電源回路は、「PoE受電機器としての制御」+「絶縁型スイッチング電源」という回路構成になります。

●PoE電源制御IC
PoE電源の制御を行う電源制御ICは「TPS23754」(メーカー:TI)というICを使用することにします。
「TPS23754」はPoE制御だけでなく、スイッチング電源のコントローラ機能も持っているため、ワンチップで上記の「PoE受電機器としての制御」と「絶縁型スイッチング電源」を実現できます。

PoE電源回路に関しては、TPS23754の評価ボード(TPS23754EVM-383 )を参考にします。

●スイッチングトランス
絶縁型スイッチング電源なのでトランスが必要になるわけですが、PoE用スイッチング電源に最適化されたトランスがあるため、これを使用します。(ただ、どれもあまり入手性は良くないです。。)
今回は5V出力の電源にしたいので、「750310744」(メーカー:Würth Elektronikというトランス にしました。
※Digikeyで調べる場合は下記の条件で検索すると、PoE用のトランスがいくつか見つかります。
 ・製品種別 : スイッチングコンバータ、SMPSトランス
 ・用途   : パワーオーバーイーサネット (PoE)


●Nch MOSFET(電源スイッチング用)
スイッチング部は入力電圧+フライバック電圧(+サージ電圧)で100V近い電圧が発生するので、スイッチングMOSFETおよび周辺部品は150V程度の電圧定格が必要になります。

 ・入力電圧37〜57V (PoE給電側機器からの供給電圧)
 ・スイッチングトランスの仕様より、Np:Ns = 5:1  (Np:一次側の巻数、Ns:二次側の巻数)
 ・フライバック電圧 (Np/Ns)×出力電圧 = (5/1)× 5V  = 25Vくらい
  上記より、入力電圧+フライバック電圧 ≒ 62〜82V 
  サージ電圧も考慮すると最大で100Vを超えるかもしれませんので、150Vくらいの定格電圧の部品を選ぶ必要があるということになります

電源スイッチング用のMOSFETにはTPS23754評価ボードでも使用されている「SI4848DY」(メーカー:VISHAY)を使用します。
 [最大定格]  ・Vds = 150V
      ・Vgs = ±20V
      ・Id = 2.1A

(5W程度の電源回路では「SI4848DY」は定格電流値がややオーバースペックかもしれません。特にオーバースペックで困ることはありませんが、とことん小型化を狙うのであればもう少し小さい定格&小型パッケージのMOSFETにしても良いかもしれません)

●Pch MOSFET(スナバ回路用)
TPS23754には電源スイッチング用MOSFET制御の他に、アクティブクランプ回路の制御もできるようにになっています。
アクティブクランプ回路についての詳細は割愛しますが、ざっくり言うと「通常のRCスナバに比べて低損失でサージやノイズが抑えられるスナバ回路」という感じでしょうか。
この回路で使用するMOSFETには「SI2325DS-T1-E3」(メーカー:VISHAY)を使用します。
 [最大定格] ・Vds = -150V
        ・Vgs = ±20V
        ・Id = -0.43A


RJ45コネクタ(Ethernetコネクタ)

PoEを使用する場合、PoEに対応したRJ45コネクタを使用する必要があります。
(PoEに対応していないRJ45コネクタでは、PoEに対応した配線及び端子がないため、電源を取り出すことができません)
今回は「1-2250024-1」(メーカー:TRP Connector B.V.)というRJ45コネクタを使用することにします。
このRJ45コネクタはパルストランス内蔵に加えて、PoE電源用のダイオードブリッジも内蔵しているため、外付けダイオード()が不要になります。
PoE_RJ45

※ PoE給電側機器から給電される電圧は直流ですが、給電側機器の仕様や使用するLANケーブル(ストレートケーブル、クロスケーブルの違い)などによって、給電される電圧の極性が逆になってしまうことが考えられるため、受電側機器のPoE電源入力部には整流用のダイオードブリッジが必要になります。


主要部品

今回の基板は回路規模は大きくないので、主要部品もそれほど多くありませんが
主要部品をまとめると下記のようになります。

  • Ethernetコントローラ      : W5500(メーカー:Wiznet)
  • EEPROM(MACアドレス取得用) :  24AA02E48(メーカー:microchip)
  • PoE電源制御IC           : TPS23754(メーカー:TI)
  • スイッチングトランス      : 750310744(メーカー:Würth Elektronik
  • 電源スイッチング用MOSFET     : SI4848DY-T1-GE3(メーカー:VISHAY)
  • スナバ回路用MOSFET       : SI2325DS-T1-E3(メーカー:VISHAY)
  • RJ45コネクタ           :  1-2250024-1(メーカー:TRP Connector B.V. 

次回からはKiCadを使って回路図を作成していきます。
次 >
前 >  
(1)導入編


このエントリーをはてなブックマークに追加